【ショート怪談】”マッチングアプリ”

20代後半の女性、奈々(仮名)は、最近マッチングアプリを使い始めた。

仕事が忙しく、恋愛に割ける時間が少なかった奈々にとって、アプリは効率的な出会いの場に思えた。

ある日、彼女は「直樹」という30代の男性とマッチングする。

プロフィール写真は穏やかな笑顔を浮かべた彼の顔。趣味や仕事の話も丁寧で、誠実そうな印象だった。

数日間のメッセージ交換の後、二人は初めて会うことになった。

直樹は「近くのカフェで」と提案したが、当日、急に場所を変更したいと連絡してきた。

「申し訳ない、仕事が長引いて少し遠い場所になるけど、いいかな?」と。

奈々は少し不安を感じたものの、彼の紳士的な態度を信じて了承した。

変更後の待ち合わせ場所は、駅から離れた静かな住宅街の一角だった。

周囲に人気がなく、どこか薄暗い雰囲気。奈々が待ち合わせ場所に着くと、直樹が現れた。

しかし、写真とはどこか違う。雰囲気が不気味で、笑顔の奥に何か隠しているような印象を受けた。

「奈々さん、会えて嬉しいです」と直樹は静かに話しかけた。

彼の声は低く、まるで無理に明るさを作ろうとしているかのようだった。

奈々は気を取り直して会話を始めたが、直樹はどこか距離を詰めてきて、執拗に彼女の過去の恋愛や家族の話を聞きたがった。

違和感を覚えた奈々は「そろそろ帰ろうかな」と切り出すと、彼の表情が一瞬凍りついた。

「え?まだ話したりないよ」と直樹は不自然な笑顔を作りながら奈々の手を掴んだ。

その手は冷たく、不自然な力が込められていた。

奈々は恐怖を感じ、「もう帰ります!」と振りほどいて逃げるようにその場を去った。

翌日、奈々はアプリを開き直樹のプロフィールを確認しようとしたが、彼のアカウントは削除されていた。

気味が悪くなり、友人に相談すると、「それ、危なかったね」と驚かれた。

数日後、奈々のSNSに見知らぬアカウントからメッセージが届く。
「昨日は突然帰られて悲しかったよ。また会おうね。」

驚愕してアカウントを調べると、そのアイコンには薄暗い住宅街で撮られた彼女自身の後ろ姿が写っていた。

どうしてそんな写真が撮られていたのか、なぜ彼がSNSのアカウントを知っているのか――奈々は震える手でスマホを落とした。

部屋の中は静まり返り、自分の鼓動だけが聞こえていた。

突如、チャイムが鳴り、宅配業者が荷物をもってきた。

出る気になれなかったので、奈々が「そこに置いておいてください」と言うと、

少しの沈黙のあと、業者は赤い目をインターホンに見せて「まだ話したりないよ」と言った。

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